2015-02-21

Pasticcio Variations on "God save the King" by Beethoven, Hummel and Kalkbrenner

Wiener Musikalisches Pfennig-Magazin für das Pianoforte allein, redigirt von Carl Czerny, 1ster Jahrgang, Nr. 45 (1834)
Nr. 115. Englisches Volkslied: God save the King, mit Variationen von Beethoven, Hummel und Kalkbrenner.

週刊の楽譜冊子 Wiener Musikalisches Pfennig-Magazin für das Pianoforte allein 第1年次第45号第115曲として出版された「イングランド民謡『神よ国王を護り賜え』とベートーヴェン、フンメル、カルクブレンナーによる変奏曲」という合作変奏曲を紹介します。前回の「『美しいミンカ』変奏曲」と同様に、この作品も編集者カール・チェルニーによるパスティッチョ変奏曲です。

Theme

Theme [God save the King]: Moderato (D major)

主題は現在ではイギリス国歌として知られる「国王陛下万歳」です。主題と3つの変奏はすべてニ長調となっています。

Var. 1: Beethoven

Var. 1 (D major) by Ludwig van Beethoven (1770-1827)
Variation 1 from Variations pour le Pianoforte sur le Thème: God save the King, in C major, WoO 78 (1802/3)

最初の変奏はチェルニーの師ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの初期の作品「『神よ国王を護り賜え』による7つの変奏曲 ハ長調 WoO 78」第1変奏をハ長調からニ長調に移調したものです。

Var. 2: Hummel

Var. 2 (D major) by Johann Nepomuk Hummel (1778-1837)
Variation 4 from Variations pour le Piano-Forte sur la Chanson: God save the king, Op. 10 (1794)

ベートーヴェンの友人であったヨハン・ネポムク・フンメルの変奏を次に配置しています。フンメル作曲「歌曲『神よ国王を護り賜え』による6つの変奏曲 ニ長調 Op.10」の第4変奏です。

Var. 3: Kalkbrenner

Var. 3: Allegro vivace (D major) by Friedrich Wilhelm Kalkbrenner (1784-1849)
[8 Variations pour le piano-forté, sur l'air favori: God save the King, Op. 17]?

フリードリヒ・カルクブレンナーはドイツ出身の作曲家ですが、主にロンドンやパリを拠点に活動していました。パリ音楽院卒業後、ヴィーンのヨハン・ゲオルク・アルブレヒツベルガーの下で対位法を学んだという点では、ベートーヴェンやフンメルの弟弟子ということになります。その後、ヴィーンの音楽家の一人として「愛国芸術家協会 Vaterländischer Künstlerverein (ディアベッリのワルツによる50の変奏曲)」にも参加しています。1834年当時はパリでピアノ奏者、音楽教師、ピアノ製作者としても活躍していました。カルクブレンナー作曲「愛好された歌曲『神よ国王を護り賜え』による8つの変奏曲 Op.17」の変奏ではないかと考えます。

Pasticcio Variations on "Schöne Minka" by Leidesdorf, Hummel, Mayseder, Czerny and Ries

Wiener Musikalisches Pfennig-Magazin für das Pianoforte allein, redigirt von Carl Czerny, 1ster Jahrgang, Nr. 41 (1834)
Nr. 107. Beliebtes russisches Lied [Schöne Minka] mit Variationen von Leidesdorf, Hummel, Mayseder, C. Czerny und Ries.

週刊の楽譜冊子 Wiener Musikalisches Pfennig-Magazin für das Pianoforte allein 第1年次第41号第107曲として出版された「愛好されたロシア歌曲とライデスドルフ、フンメル、マイゼーダー、C.チェルニー、リースによる変奏曲」という合作変奏曲を紹介します。合作変奏曲とはいっても、フェルディナント・リース以外の4名が参加した「愛国芸術家協会 Vaterländischer Künstlerverein (ディアベッリのワルツによる50の変奏曲)」のように各者が委嘱によってこの作品のために変奏を書いたわけではなく、既存の変奏曲からの抜粋を編集者カール・チェルニーの手によって一つの変奏曲にまとめ上げられたもののようです。

モーツァルトは異なる作曲家によるソナタの楽章などを一つの協奏曲にまとめたものを7曲残し、それらはパスティッチョ・コンチェルト (Pasticcio concerto) として知られています。また、ヨハン・バプティスト・クラーマーの例で言えば自作のピアノ協奏曲第5番ハ短調 Op.48 の第1、第2楽章とモーツァルトのピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491 の第3楽章を組み合わせて演奏するということもあったようです (小岩信治「ピアノ協奏曲の誕生」、春秋社)。この作品もパスティッチョ変奏曲と呼べるものでしょう。

Theme

Theme [Schöne Minka ; Їхав козак за Дунай ; Ехал козак за Дунай]: Allegretto (A minor)

主題はウクライナ民謡「コサックはドナウを越えて」(Їхав козак за Дунай ; Ехал козак за Дунай)。当時のドイツ・オーストリアでは「美しいミンカ」(Schöne Minka) の題で知られていました。

Var. 1: Leidesdorf

Var.1: Vivace (A minor) by Maximilian Josef Leidesdorf (1787-1840)
[Variations sur l'Air: Schöne Minka]?

マクシミリアン・ヨーゼフ・ライデスドルフはオーストリアの作曲家・音楽出版業者で、1834年当時はイタリアのフィレンツェを拠点に活動していました。ライデスドルフの作品に「歌曲『美しいミンカ』による変奏曲」がありますが、その中の変奏ではないかと考えます。

Var. 2: Hummel

Var. 2: Tutto legato (A minor) by Johann Nepomuk Hummel (1778-1837)
Piano Part of the Variation 1 from Adagio, Variations et Rondo sur un thème russe pour piano, flute et violoncelle, in A minor, Op. 78 (ca. 1818)

ヨハン・ネポムク・フンメルはプレスブルク (ブラチスラヴァ) 出身の作曲家・ピアノ奏者で、1834年当時はヴァイマルで音楽監督をしていました。フンメル作曲「ピアノとフルートとチェロのためのロシアの主題によるアダージョ、変奏曲とロンド イ短調 Op.78」第1変奏ピアノパートが基になっています。

Var. 3: Mayseder

Var. 3: Vivo e brillante (A minor) by Joseph Mayseder (1789-1863)
[Variationen über ein russisches Lied "Schöne Minka, ich muß scheiden", in E minor, Op. 1]?

ヴァイオリン奏者でもあったヨーゼフ・マイゼーダーは管弦楽曲や弦楽器のための室内楽曲を主に残しています。マイゼーダー作曲「ロシア歌曲『美しいミンカよ、別れねばならぬ』による変奏曲 ホ短調 Op.1」(ヴァイオリンを含む数種の編成による) の変奏を編曲したものではないかと考えます。

Var. 4: C. Czerny

Var. 4: Legato cantabile (A major) by Carl Czerny (1791-1857)

主題と他の変奏はイ短調ですが、このカール・チェルニーによる変奏だけはイ長調で書かれています。

Var. 5: Ries

Var. 5: Vivo e brillante (A minor) by Ferdinand Ries (1784-1838)
[9 Variationen über ein russisches Lied, Op. 33 No. 2 (1809)]?

ベートーヴェンの下でのチェルニーの兄弟弟子にあたるフェルディナント・リースによる変奏をフィナーレにあてています。出版時のリースの動向はというと、フランクフルト・アム・マインからアーヘンに拠点を移し、同地で開催された1834年のニーダーライン音楽祭で音楽監督を務めています。リース作曲「ロシア歌曲による9つの変奏曲 Op.33/2」の変奏ではないかと考えます。

2015-02-13

Ferdinand Hiller - Choral on the motif G-A-C-B in G major, Op. 79 No. 8

Ferdinand Hiller (Germany, 1811 - 1885) - 8 Leichte Klavierstücke für seine kleine Tony, Op. 79 (pub. 1858); No. 8. Choral G-dur. Andante.

ドイツの作曲家フェルディナント・ヒラー作曲「小さなトニーのための8つの易しいピアノ小品」より第8曲「コラール ト長調」を弾きました。「行進曲風」、「タランテラ風」、「小奇想曲」、「ロマンツェ」、「小ロンド」、「スケルツォ」、「バラード」、「コラール」からなる曲集の終曲です。トニーというのは出版された1858年には8歳だった自身の娘、アントニー (Antonie Kwast-Hiller, 1850 - 1931) のことのようです。アントニーは後にオランダ出身のピアノ奏者ジェイムス・クヴァースト (Jacob James Kwast, 1852 - 1927) の最初の妻となります。

コラールは G-A-C-H の4音からなるモチーフ、いわゆるジュピター音型 (ハ長調の C-D-F-E) で始まります。この音型はモーツァルトが好んで使ったことで知られ、その名も彼の交響曲第41番ハ長調 K. 551 の俗称ジュピターから取られています。モーツァルトの弟子ヨハン・ネポムク・フンメルピアノソナタ第3番ヘ短調 Op. 20 第3楽章のフガートの主題にこの音型を用いました。そしてフンメルの弟子の一人がこのヒラーです。学習者のための性格的小品集といったものの終曲にこのコラールを配置するところに、古典に対するヒラーの敬意を感じます。曲の後半からスタッカートの伴奏が拍を刻む手法は、以前紹介したヒラー作曲のコラール (小組曲 Op. 197 第3曲) でも用いられています。

2015-02-11

Kimigayo, harmonized by Paul Fauchey

Hymne japonais [Kimigayo, the national anthem of Japan] (Paris: Philippo, 1915), harmonisé par Paul Fauchey (1858-1936)

100年前にパリで出版された日本の国歌「君が代」の楽譜のピアノ伴奏を弾きました。フランスの作曲家ポール・フォシェによって編曲されたもので、4小節の前奏と7小節の後奏、フランス語訳された歌詞が付いています。旋律はほぼ原曲通りですが、和声がフランツ・エッケルト (Franz Eckert, 1852-1916) のものと異なっています。プロイセン出身でブレスラウとドレスデンの音楽院といったドイツの音楽教育を受けたエッケルトによる和声が付いた楽譜ではなく、パリ出身でパリ音楽院で学んだフォシェによって新たに和声を付けられたものが、第一次世界大戦 (1914-1918) の最中のフランス・パリで出版されているというのは興味深いです。同じ主題で変奏曲 Hymne japonais. Thème et variations (Paris: Philippo, 1915) も書いたようですが、こちらも気になりますね。

フォシェは作曲家のほか、オルガン奏者・ピアノ奏者などとしても活動しました。カミーユ・サン・サーンス、ジュール・マスネ、テオドール・デュボワに師事し、パリ音楽院を和声法の一等賞を得て卒業。サン・ロック教会、サン・トマ・ダキャン教会の正オルガン奏者、パリ音楽院和声法教授、リリック座、オペラ・コミック座における音楽院演奏会協会の歌唱指導者・合唱指揮者を歴任しました。

[歌詞]

Nous voulons grand Empereur
Que tu règnes à jamais avec bonheur
Que toujours aux jours succèdent les jours
Que toujours tu règnes vainqueur sur nos cœurs!

[表紙] 大日本帝国陸軍の軍旗、同海軍の軍艦旗として使われていた旭日旗を背景に、仏塔と花木のある庭園、赤い顔の仮面、提灯、刀と鞘が描かれています。